触媒

fiction by michael werneburg

午前中の暑さに汗をかいた。気温はすでに40度を超え、夜中まで続くだろう。西の方角で発生した火災の影響で、空気中にはたくさんの煤が舞い上がり、その日はオレンジ色と茶色のギトギトした色をしていた。私はできるだけ多くの水を携行し、パニアには小さな修理キットを入れていた。狂気を予期していたが、こんなことはなかった。200人のエントラントと何千人もの観客が悲鳴をあげていたに違いない。サポートスタッフ、カメラクルー、スポンサーの歌と踊りの一団、頭上を疾走するドローン......まさにカオスだった。私にとって最悪だったのは、私が通ろうとしていた近道が、路地の入り口を横切る4、5人のファンによってふさがれていたことだ。

観客はレースが始まるのを知り、どよめき始めていた。司会者はまだ自分の仕事を続けていたが、ルーティンは終わりに近づいていた。彼はすでに主要スポンサーの担当者を出入りさせ、「ルール」を繰り返していた。「覚えておいてください」と彼は叫んだ。「唯一のルールは、3つのマーカーすべての写真を持ってゴールすることです！」。

もちろん、狂気の沙汰だ。こんなレースが開催されること自体、狂気の沙汰だ。しかし、さすがはデュシリンだ。私のような自暴自棄な者が自転車レースで生死を賭ける一方で、大金が動くのであれば、こんな小さな州でも起こるだろう。このようなレースでは通常、少なくとも60％以上の死傷者が出ており、ゴールラインにたどり着いたのは1人だけだったということも何度かあった。スポンサーが地元企業ばかりなのは当然のことで、多国籍企業はどこも、他の管轄区域で非難されるようなことにはあえて参加しなかった。

私はその狂気の勝利に期待していた。私が考えていたことは、実際、レースを永遠に変えるかもしれない。でも、それは先走りすぎだった。トップ10フィニッシュさえできれば、あとは支払いをするだけだ。

司会者が壇上に上がった。頭上での突然の爆発音に、思わず声が漏れた。花火だ！真昼間に、しかも50メートルも上空で。粉々になったボンベが空から降ってくるのが見えた。この狂人どもめ！

司会者を見ていて、私は自分の計画を疑い始めていた。紙の上では簡単そうに見えたのに！傾斜は25度以上あり、決して通ることのない道だ。レース主催者は何を考えているのだろう？

私はヘッドアップディスプレイを立ち上げ、ルートマップをもう一度確認した。よし、最初に選んだ脇道が使えないなら、3番目に左折しよう。実際、路地は6ブロック先で私が進みたかった脇道と合流した。これはほとんどセットバックでもなかった。

「おい、そんなもの別の場所に向けろ！」とすぐ近くで声がした。私はHUD越しに、すぐ目の前にいる出場者のひとりを見た。ホログラフィック・タグに48と書かれたスポーツマン風の男が、私の前方、私の右側にいる男の手にある何かを、左手で怒ったように指差していた。その男が言葉を発した男を振り返ったとき、私は無骨で傷だらけの顔を垣間見た。この男はアスリートというより獣だった。そして彼の手首にナイロンのストラップで留められていたのは、機動隊が使うようなスタン・スティックだった。

私は両足を地面につけ、この状況から抜け出そうとした。レースが始まってもいないのに、武器が出てきたのだ！多くのエントラントが武装していることは知っていたが、自分の前輪が武装したエントラントの太ももに当たっているのは、まったく別のことだった。

ナンバー48はスーツからプラスチック製の小さな電球を取り出した。彼は対戦相手の302番をジェスチャーで示し、「お前が先に動け！」と言った。

302番は杖を持ち出し、「護身術に興味があるだけです 」と言った。

この状況を早く脱する必要があった。ハンドルを引っ張ったが、ナンバー48のペダルのクリップの端が前輪のディスクの隙間に突き刺さっていた。私はハンドルを引っ張り、なんとか車輪をフリーにした。48番は私の方を振り向き、私が見た限りでは厳しい表情をしていた。彼が何か言う前に、あるいは私がどこかに行く前に、NCVから 「10、9、8、7... 」という声が聞こえてきた。

レースが始まったのだ。バイクを後ろに倒し、私は小さな対決から抜け出した。ゼッケン48番と302番がペダルを踏み込み、超軽量バイクは完全に直立していた。おそらく5ロックブレーキシステムだろう。彼らは5つの 「小さな寸法 」を使って慣性を管理しているのだ。私の自転車には空気タイヤと片持ちブレーキがついていた。いくら普段から自転車を使っていたとしても、彼らと真っ向から競い合えば、私は犬死にするだろう。私は自分の計画がうまくいくことを祈るしかなかった。トップ5に入れば、1年分の家賃が手に入るのだ。

カウントダウンが始まり、騒乱が始まった。サイクリストたちは押し合いへし合い、観客のピッチは上がり、スポンサーのファンファーレは実にばかげたレベルに達した。

「とNCVから声がした。私は呪った。彼らは出場者に中継を流していたのだ。彼らはレースの情報を私たちに伝えると言っていたし、私たちが通信装置を無効にすることはできないと言っていた。スポーツ中継』とは一言も言っていない。